上野の老舗とんかつ店。昭和5年(1930)創業。「箸で切れるやわらかいとんかつ」を考案した。

切妻屋根の木造モルタル2階建て。店頭に、もみじ、やつでなどの木々があしらってあり、昭和の風情漂う懐かしい店構え。

天神下交差から春日通りを40メートル西から、南に小路に入ると店はある≫人気blogランキング



南隣に黒い建物があり、出入口(出口専用のよう)に初代店主が書いたという「井泉とんかつ」の看板が掲げられてた。外からは2棟に見えるが、中で繋がってて、1軒の店として使っているよう。

今は目立たない路地だが、創業時ここは、下谷同朋町という下谷花柳界のあった界隈で、店の前は柳がなびき人力車が行き交う粋な横丁だったという。周りの情景は変わったが、 井泉は当時のままとのこと。

創業は、上野とんかつ御三家の『ぽん多本店』(1905年創業)、『蓬莱屋』(1912年創業)、に次ぎ、『双葉』(1968年創業)よりは古い。(上野古参の名物とんかつ店『平兵衛』(1925年創業)は、店主逝去により2011年7月閉店)。因みに『蘭亭ぽん多』(1946年創業)、『とん八亭』(1947年創業)よりも古い。

映画「喜劇 とんかつ一代」のモデルとなった。

初代女将が、芸者衆がお座敷の合間に、手軽に口紅がとれずに食べられるようにと、昭和10年頃、とんかつを挟んだ小さめのサンドイッチを考案し、「かつサンド」発祥の店としても知られてる。

店名は本来、初代画号から、井泉(せいせん)と付けたが、(いせん)と読む人がほとんどだったため、現在の店名になってる。

昭和30年代にデパートに出店。現在は、本店の他に、上野(松坂屋南館地下1階)、日本橋(高島屋地下1階)、丸の内(丸ビル地下1階)の直営店があり、これらの店を3代目(初代店主の孫、2代目の娘)が束ねる。

昭和40年代には2代目が、吉祥寺、浅草、五反田、旭川、札幌、銀座にある6店を暖簾分けし、それぞれ『地名+井泉』の店名が付いてる。3代目になり、暖簾分けを廃止したため、これ以外は、暖簾分けの店が出した支店などである。

以前あった「暖簾分け」の条件は、店で10年以上+本店の揚げ方を数年以上勤め、さらに『井泉』の雰囲気を、体で感じ取り身に付けた人、とハードルが高かったよう。



玄関脇にメニューが掲示されてた。とんかつだけでなく、洋食のメニューも豊富にあった。



店の中へ入ると、店内は幅2間程で縦長の長方形型。すぐ正面が広めの厨房で、手前〜右手奥へとL字のカウンター席になってて、通路を隔てて手前側(玄関の右と左に)にテーブル4人用が1つづつ配置されてた。右手の壁際には待ち客用の椅子が置かれてて、その先の壁に開いてる小窓のところが、コンパクトな帳場になってた。

カウンター内の広めの厨房には、男性調理人4人が玄関側を向いて、カウンターに沿って、姿勢良く並んで立ってて、入店するなり、一斉にいらっしゃいませの声で迎えてくれた。老舗っぽい雰囲気に押され、気後れしそう。

来る客と向かい合うように、2人が正面のカウンター内側に横に並び、右手やや後にカウンターに沿って2人が縦に並ぶ。

正面の2人は、左手の人(40代位の背が高めで眼鏡をかけた男性)が、取り出した豚肉に、衣を付けて油で揚げてた。「揚げ方」と呼ばれる、この店の花板さんのよう。

正面右手の人(20代後半くらいのイケメン系の男性)は、とん汁と、揚がったとんかつを包丁で切る、キャベツなどの盛られてるお皿に盛り付けるなどしてた。

コンロの上に中サイズの鍋(寸胴)が2つ置かれてて、とん汁が入ってる。揚げ方からとんかつが揚がったと告げられると、即、手前にある蓋なしの状態の鍋から、お椀にとん汁をよそってた。
時折、お玉で小皿に注いで味見をしてから、脇に置かれてる金属製の水差しから、水(出汁?)を足したり、すでに鍋の中のとん汁は長ねぎも入っている完成品だが、さらに、輪切りに切ってある長ねぎ(丸い金属製ボールに入ってる)を加えたりしてた。長ねぎを加えた直後に、注文品のとんかつが揚がれば、鍋から長ねぎを加えたばかりのとん汁を、お椀に注ぐこともあった。
1つが少なくなると、コンロの下の方から、新たな鍋(寸胴)をコンロの上へと移動し、蓋をとって、ぐらぐらと沸騰させた後、蓋を少しずらした状態で閉じてた。

この調理人、そんなとん汁の作業と共に、自分の左手90°の位置にある、寿司下駄っぽい形の小型のまな板の上に、揚がったばかりのカツを載せて切ってた。見てた限りほとんどどのトンカツも、1枚につき包丁で4回切ってた。まず真ん中あたりを1回切って、右側に包丁を移動して1回、そして、さらに左側に包丁を移動してそこで2回、と計4回同じリズムで切ると、キャベツなどが盛られた皿に盛り付けてた。

このまな板、板面が波々になってて、珍しい形。特注品かと思ったら、平らなまな板が、毎日使ってるうちにすり減って波々になったのだそう。大工さんに平らに削ってもらうが、まな板の寿命は約2年だそう。

この2人は、ほとんど持ち場を離れることなく、作業してた。

右後ろ側にいる3人目の調理人は、お皿にキャベツを盛り付けてた。その奥の4人目の人は(丸っこい体型の男性)が、パンにマーガリンを塗る、具を挟み、パンの耳を切り落とし、サンドイッチを規定の大きさに切るなど、サンドイッチ作りをしてた。さらに、カニサラダの注文があった時は、金属ボールの中で、サラダを和えて器に盛り付けてたりもしてた。

玄関側で働く調理人3人は、白地に土器色(かわらけいろ)の衿&帽子のユニフォームを着てた。

客席側には、土器色のユニフォームを着た接客係の女性4人くらいと、帳場付近に白地の和服(白大島?)をキリッと着た50〜60代位女性がいて、客の誘導や会計を担当してた。この和服の人が初代の孫で女性ながら3代目店主のよう。

接客係の女性は、お座敷席の客の料理が出来上がると、店の奥側から厨房の中程まで(3人目の調理人の立ち位置のあたりまで)入っきて、出来上がった料理の皿にプラスチックの皿枠を載せ、皿を幾つか重ねると、客席の方へと運んでいく。ほぼ同時に、人数分のとん汁などもここでお盆に載せて準備して、客席へと運んでた。



いらっしゃいませと迎えられた後、接客係の女性に、カウンター席とお座敷席、どちらになさいますかと尋ねられた。お座敷席と答えると、右手壁際の待ち席の前を通って、帳場の手前から右へ折れてる通路の先に、小さな座敷席(4人卓×2の配置されてる)へ案内された。この他にも、1階と2階に大きめの座敷席があるよう。

 

メニューから、ロースかつ定食、ひれかつ定食を注文。店頭のメニューの方が、写真入りなので見やすかった。

かつ丼は5種¥1250〜¥1900あるが、単品の価格でみそ汁は付いていないのが気になった。
因みに、『とんかつ やまいち』のロースかつ丼¥1600は、キャベツ、みそ汁(赤だし)、漬物付き。
『とんかつ 勝漫』の大かつ丼¥1600は、みそ汁(赤だし)、小鉢、漬物付き。

 

メニューと一緒に、週刊誌に掲載記事が綴じられ、店の歴史などが書かれてた。

 

テーブル上には、ソース、マスタード、七味などが置かれてて、ドレッシングはなくクラッシックなとんかつ屋の雰囲気。

紙ナプキン、紙おしぼり(厚手)、箸袋、には、同じ豚のイラストが描かれてて、これが2代目が考えた店のロゴ(マーク)のよう。

ちょっと待ってたら、料理が運ばれてきた。



ロース定食 ¥1250

ロース定食は、やや小ぶりのロースかつに、千切りキャベツ、パセリが添えてシンプルに盛り付けてあり、これに、ごはん、とん汁、漬物が付いてた。

ロースかつは、普通の厚みの豚肉に、中〜細目挽きのパン粉をまぶして、全体にこんがりとした色で揚げ、5切れにカットしてあった。肉と衣が密着していて食べやすくロース肉は確かに柔らかいが、脂身ジューシー感や赤身の歯ごたえはほとんどなく、ロースかつらしくないとんかつだった。

とん汁は、熱々で運ばれてきた。スープ表面に大きめの長ねぎ(約1.5cm厚の筒切りの長ねぎ)が多めに10ヶ位と、灰色のこんにゃく様の塊がいくつか浮いてて、スープの下には、不揃いな形の豚肉、人参(いちょう切り)、ごぼう(薄い輪切り)が沈んでた。浮いてた長ねぎは生っぽく、ねぎ特有の刺激感がある。一方、沈んでいた具は煮込んであったらしく、豚肉はパサパサしてて固く、人参、ごぼうは柔かく煮えてた。表面に浮いてた灰色の物体は、こんにゃくではなく豚肉の脂身の部分だった。

漬物は市販品のようだが、いくつも支店があるので共同で大量生産してるのかも。



ヒレかつ定食 ¥1800

ヒレかつ定食は、ロースかつより、表面積がひとまわり程大きいヒレかつに、千切りキャベツ、パセリが添えてシンプルに盛り付けてあり、これに、ごはん、とん汁、漬物が付いてた。

ヒレかつも、中〜細目挽きのパン粉をまぶして、全体にこんがり揚げてあり、横に倒してみると肉に厚みがあって、ロースかつと同じく5切れにカットしてあった。柔らかく、適度な大きさに切ってあるので、箸で切り分けることなく食べられたが、確かに箸でも切り分けられた。


下のひと切れだけが、ロースかつ

ヒレは、もともと柔らかくジューシーさのある部位ではないので、厚みのある肉を食べているという実感が湧きにくかった。漬物は、ロースかつと同じものだった。

近くの席のスーツ姿の男性2人連れは、ごはんとキャベツのお替わりをしてた。メニューにも書いてなく説明もされなかったが、ごはん、キャベツのお替わりは無料でできるよう。


盛り合わせ定食 ¥1850

盛り合わせ定食は、この店の人気メニューのよう。一口かつ、海老フライ、海老コロッケ、ホタテ(貝柱)フライの4種が少し重なるように、千切りキャベツ、自家製のタルタルソース、パセリ、レモンを添えて立体的に盛り合わされてて、これに、ごはん、とん汁、漬物が付いてた。

一口かつは、柔らかいヒレカツで、海老は中くらいのサイズのものだった。ホタテフライは、繊維が縦に束状に揃ってなくて、貝柱っぽくなく白身魚かと思った。

海老コロッケは、中の具が黄色っぽい色で、イカorゆで玉子の卵白の部分かと思うような刻んだ白い物体が入ってて、あっさりした風味だった。

タルタルソースは、刻んだゆで玉子、ピクルス、玉ねぎが入ってた。サラサラとしてて少し水っぽいような、自家製のタルタルソースだった。



三色サンド¥1250+とん汁¥200

三色サンドに、とん汁をつけますかと聞かれたので、+¥200でとん汁を追加した。

三色サンドは、初代女将が、かつサンドを考えた後、宴会でお肉の食べられない人が摘める様にと考案したもの。かつ、カニと胡瓜のサラダ、玉子の3種のサンドが3ヶづつ盛り合わせになってる。

とん汁と一緒に、中皿に盛られた千切りキャベツが運ばれてきて、サービスですと言われた。

3種のサンドイッチは、高さ2.8〜2.9cm程の大きさに切りそろえてあって、少し小さめサイズのサンドイッチになってた。

かつサンドのカツは、揚げたてのカツが使ってあるようで、温かかった。かつは柔らかく、テーブル上のソースより、少し色の濃いソースを絡めて、キャベツは入れずに、パンで挟んであって、かじっても、パンがずれたり潰れたりすることがなく、食べやすかった。1切れは3口くらいで食べられた。

カニサンドは、たっぷりの薄切りのキュウリにほぐしたズワイガニの身を加えて、マヨネーズで和えてあった。ずわいは缶詰ではなくボイルしたものを使っているよう。缶詰っぽさ水っぽさなく、薄切りきゅうりは少ししんなり&しゃりしゃりと心地いい食感で、カニの量は控えめだが、実は隠れたロングセラーメニューのよう。

玉子サンドは、卵白が長細かったり不揃いな形をしてて、食感のアクセントになってた。

 

会計は伝票ではなく、会計用の札を渡されたので、これを帳場に出して会計を行った。

白木の無垢材が使われた、カウンター席に座った男性客は、カニサラダとビールを注文してた。接客係の女性は、カニサラダが出てから、ビールを運ぶよう段取りしてた。この男性、両方が運ばれてくると、ガラスの器に小高く立体的に盛られたカニサラダを食べながら、ビールを飲み始めてて、常連っぽさが漂ってた。

店のHPの中にあるブログに、ヒレかつ定食を注文で、もれなく3切れかつサンドプレゼントのクーポン券があるが、今も有価かは分からない。
他にも、ヒレかつ定食を注文で、
ソフトドリンク1本プレゼントのクーポン券
特製ソース(小)プレゼントのクーポン券 などがある。

このブログは、3代目の娘さんが書いてるようで、ほぼ毎日更新され、店員への厳しい指導が書いてあった。

箸で切れるやわらかいとんかつは、確かにやわらかではあるが、肉をたたいてやわらかくしてあるためか、やわらかい反面、豚肉らしい繊維感やジューシーさに欠ける。ヒレかつならまだいいが、ロースかつは、しっかりとした歯ごたえのとんかつを食べたい人には不向きかも。花柳界の人に受けたのは理解できる。

初代店主が洋食出身なので、ハンバーグ、など洋風メニューがいろいろあって、中でもオムレツは自信メニューだし、ホワイトソース、デミグラスソースも店特製のよう。

老舗で常連が多いせいか、初めて行く客にはシステムがわからない点が多いが、上野のとんかつの老舗店らしい雰囲気。最近はミルフィーユかつが流行ってて、軟らかい肉が好きな女性や年配客に向いてそう。

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■とんかつ『井泉(いせん)本店』
 東京都文京区湯島3-40-3
 電話:03-3834-2901
 営業:平日11:30~20:50
    日祝11:30~20:30
 定休日:水曜日
 祝日が水曜の場合は営業